Talking Rock!とShow must go on
2020年9月号の『Talking Rock!』に掲載された安田章大さんの特集を読んだ。
安田さんのインタビューを掲載してくださるのは3度目。
インタビューをしていただいた吉川さんは、ライブや舞台にも足を運んでくださっているようで、もっと言うと安田さんがプライベートで足を運ぶライブでお会いすることもあるようで、安田さんとの関係性が深く、それもあってか聞かれたことを、安田さんが話したいことを、よく言えば素直に、悪く言えば配慮なく話された率直なインタビューだった。
なかなかにシビアで、議論を呼びそうなこともありそうな、そんな内容だと思う。
でも不思議と「曝け出した」のではなくて「聞かれたから答えた」という素直すぎる印象を受けた。
安田さんの心は常々オープンだと思うけれど、良くも悪くも自分を繕うことなく自然に生きている人なんだなと。
そんなインタビューを読んだ率直な感想は、安田さんってかなりシビアに物事を受け止めているんだなということ。
19年2月号で特集を組んでいただいた時にも、安田さんはGR8ESTツアーを中止にしてほしいと自分からメンバーと事務所に言ったと明かしてくれた。
何度か話し合いの場を持って、メンバーの前で泣きながら中止を訴えて。
もしもやるなら自分は出ないと言い切って。メンバーも安田さんの身体と想いを受け止めてくれて中止と決めて、事務所にもそう言いに行ったと。
GR8ESTツアーに出るか、出ないか。
GR8ESTは関ジャニ∞さんにとってはいつものツアーではなかった。
すばるさんが脱退して、6人体制となる初めてのツアー。
メンバーにとっても、ファンにとっても、6人の関ジャニ∞としてリスタートを切ることになる大切な場所。
そんな想いは100も承知で、安田さんだってきっと出たくて仕方がない場所だったと思う。
けれどそれは同時に、病気の後遺症や腰と背骨の骨折…つまり自分の命やこの先の人生を賭けてでも出演するべきものか?ということだったと思う。
安田さんは、自分が風邪を引いて体調が悪くても、他の出演者や監督の体調が悪ければそれを隠して主役としてスタッフさんを盛り上げて後でトイレで吐いてたらしいし、収録で振られたら無理して食して後でトイレで吐いていたと聞く。
そんな無理しがちな安田さんが、大切なツアーであることを痛いほどにわかっている上で、自分の命と人生のために中止にしたいと訴えたという話で。
その時の事務所の意向は「赤字にしたくない」。
この言葉だけをとってしまうと、安田さんの天秤は命に傾いていたけれど、事務所の天秤はツアーに傾いたということ。
この時、安田さんの選択肢は2つになったんだろうなと想像してしまった。
ひとつは、安田さん抜きでツアーをすること。
もうひとつは、安田さんがツアーに出ること。
結果、ツアーはスケジュール通りに行われ、初日から最終日まで安田さんの姿はステージ上にあった。
私は想像することしかできないので、あまりに想像で言い過ぎてしまったけれど、本当はきっともっといろんな葛藤や悩みや争いや優しさや苦悩や意思があったと思う。
だって19年2月号でも日程を変更して大阪を初日にしようか?という案もあったと言っていたし、もしかしたら途中から参加するという選択もあったかもしれない。
究極の2択だけだったわけじゃない。きっといろんな選択肢があったと思う。
けれど大きなカテゴライズでは、この2択だったんだろうなと思う。
(全然余談にしたくないけど、病気も怪我も公表した上でツアーをすると発表した後、大倉さんがレンジャーで「1番大事なのは親友の命だから個人の意見としては休んでほしい」と仰ってくれたこと。村上さんが「何もないように」と祈ってくれたこと。背中をそっと支えてくれていたこと。横山さんが頭を撫でてくれたこと。酔った丸山さんがホテルの廊下で騒いで安田さんが目が覚めてしまったと知った時の「ごめん」も、錦戸さんがリハの時に安田さんの顔色を見て「休もうか」と言ってくれたことも。メンバーやスタッフさんが安田さんを守ろうと考えられる限りのケアをしてくれただろうこと。なにより安田さんが命がけでステージに笑顔で立ち続けてくれたこと。それがいいか悪いかは別として、この先も一生忘れない。)
今回のインタビューで安田さんは、事務所の意向もわかったし、ジャニーさんの”Show must go on”の精神も理解できたと言っている。
”Show must go on”
ー何があってもショーは続けなければならない。
ーショーでハプニングが起こっても何事もなかったようにショーは続けるべきだ。
これは幼い頃からKinKiファンだった私にはとても耳なじみがある言葉だ。
光一さんの舞台『SHOCK』の象徴となっている台詞。
私はジャニーズ全般に詳しいわけではないけれど、そんな私でもたびたびジャニーズのタレントさんから耳にすることがある。
これはきっとジャニーさんの精神、つまり、ジャニーズ事務所の精神の一つとも言えるのではないかと思う。
そして、こういう時に安田さんの口から”Show must go on”が当たり前のように出るのが、安田さんがジャニーズ事務所に長く所属している証だなとも思った。
だから、ここにきて初めて調べてみた。
まずこれは慣用句で「一度始めてしまったら、何があっても中止できない」という意味だと知った。
ではジャニーズではどういう風に使われてきただろうか?
すぐにファンの方のとても丁寧なブログに行き当たった。
読んでみると、ジャニーズの舞台で使われたのはどうやら少年隊さんの『PLAY ZONE’91 SHOCK』が最初のようで、これはQueenのアルバム『Innuendo』から影響を受けたようにも見受けられるとのこと。
そこから『SHOCK』、『Endless SHOCK』、『Johnny's world』といったジャニーさんが手がける舞台*1で使われている言葉であることがわかった。*2
それぞれの舞台における”Show must go on”の理由は、様々で。
・そこに待っているお客さまがいるから。
・怪我をしたメンバーが帰る場所を守るために。
・自分たちの夢のために。
・怪我をさせてしまったメンバーへ責任をとるために。
・ショーの最中にハプニングが起こっても観客にはわからないようにするために。
・立ち止まらずに新しいショーを作り続けなくてはならないから。
・走り続ける苦しみを伴ってもそこから表現を生み出せばより輝くことができるから。
・人々に幸せを与えるショーを作るために。
・世界を平和にするために。*3
・地球を青くするために。*4
(最後に関してはジャニーさんのトンチキワールド全開の舞台の台詞らしいので、疑問符だらけな方もいらっしゃるかと思います。が、そこは関ジャム先生からも教わった通り「そういうもの」として受け止めてほしい。私はそうした。)
舞台ごとにショーは続けなければならない理由があった。
これは私が”Show must go on”から受けていた印象とそう相違はなかった。
でも、今回の安田さんのお話はショーではない。
安田さんがここで無理をすることが彼の一生に関わってくる可能性がある、彼の人生の話だ。
Show must go onを調べているときに、ミュージカル舞台には「アンダースタディ」という言葉があるということを知った。
代役。
誰かにハプニングが起こった時に代理で出演できるように、ミュージカルには当たり前にある概念。
ミュージカルだけでなく、他のアイドルグループの中にも「アンダー」がいる。
常設劇場を持つ某グループはその公演にスケジュールが合わなくて出られない時にはアンダーが代役を務める。
また、リハに来られないメンバーに代わってアンダーが踊り、本番までにアンダーが振りや立ち位置をメンバーに教えることもあるらしい。
私は野球ファンでもあるけれど、プロ野球でもレギュラーが怪我をして出場できなくなったら2軍の誰かが昇格して試合に出る。
Jr.中心のJohnny's worldでもそういった概念がある(らしい)。
私にとって安田章大さんは代えがきかない存在である。
けれど、個から離れて安田さんのファン以外の方にとって、関ジャニ∞さんのファン以外の方にとって、事務所の方にとって、ジャニーズに興味のない方にとって、そういう集団として見たときに、1人の存在は代えがきかない存在だろうか。
アイドルに限らず、きっとそうではない。
プロ野球好きの視点から言っても、代えがきかない選手というものは確かにいるけれど、その選手が怪我をしたり引退したりしてもチームも試合もなくならない。
現状のメンバーで闘わなければならない。
ショービジネスとは、スポーツ界とは。いや、きっとどの世界でも。
ある側面から見れば世界はそういう風にできているんだろうな。
誰かにとっては代えがきかない存在だけれど、集団として見たときに代えがきかない存在はいない。
安田さんはきっとシビアにそういうことを受け止めている。
受け止めているけれど、それだけでないジャニーさんの精神と、事務所の意向やメンバーの気持ち、きっと一番はファンの気持ち。そんなことを総合的に判断して、「出る」と決めてくれた。
安田さんにとっての”Show must go on”の理由は安田さんにしかわからない。
きっと1つの理由だけでなく、総合的な判断だったと思う。
人生はショーではない。
それこそできることなら”Life must go on”な選択をしてほしい。
あなたが健康でなければ私はどんなショーを見せてもらっても苦しくて悲しくなる。
あなたの命と引き換えのショーなんて見たくない。
それならショーを見れなくても良いから安田さんに生きていて欲しい。
そんな風に1ファンの我が儘が顔を出す。
それでもGR8ESTでは安田さんはShow must go onを選択した。
そして、正しかったかどうかはわからないその選択の後、今、ジャニーズ事務所という場で自身の表現を続けることを選択した安田さんは、表現するための摩擦を恐れなくなったような気がする。
自ら企画を立ち上げた写真集『LIFE IS』もそうだし、今回のTalking Rock!でも後半では新曲『Re:LIVE』の音作りにかなり深く拘った話をしてくれた。
コストがかかるからジャニーズでは行っていなかったプリプロを提案したし、完成されたトラックダウンをやり直すように指示をしたと言っていた。
それはどれもこの曲をより深く伝えるための提案だったのだろうけど、当然、一部のスタッフさんとの間では摩擦が生まれたと言っていた。
この話を聞いたとき、そりゃそうだなと思った。
今まで1回で済んでいたレコーディングを、プリプロをやることで単純にそれに必要なスタジオ代や人件費といった分のコストが上乗せになる。
それにスタッフさんだって音楽のプロだ。
これまでの経歴、プロとしての信念みたいなものがある。
誇りをもってやった仕事に対して、突然、口を出される。
摩擦が生まれないわけがない。
メンバー曰く優しくて、気遣いの人である安田さんがそれをわからないはずがない。
『Black of night』の時は「衣装さんや監督さんに細かい設定や意味を伝えたけど、後はみなさんプロだから任せた*5」と仰っていた。
そんな安田さんだけど。
そんな安田さんだから。
摩擦を恐れずに、摩擦の先に生まれる信頼を信じて。
表現することを選択して、闘うことにしたんだなとわかった。
お金のこと、人を動かすということ、自らの存在価値
今回のインタビューでわかったことは、安田さんは自身がシビアな世界にいることを想像以上に深く理解しているということ。
その理解の上で、表現したいことを表現する方向へ舵をきったんだということ。
そしてもちろん、安田さんだけでなく関ジャニ∞さん全員が同じ意思をもって舵をとったこと。
MVやジャケットの打ち合わせ風景でも、当たり前だけど関ジャニ∞さんは全員この曲に込めた想いが一致していたように見えた。
だから、MVもジャケットも、その想いと方向が同じかを厳しく確認していたように見えた。
そうやって関ジャニ∞さんの意見をたくさん盛り込んでくれた結果、Re:LIVEは私たちの元に届けられた。
初動売上32.6万枚の記録とともに。
この結果は事務所やスタッフさんにとって及第点の数字だっただろうか。
いつもよりお金のかかるレコーディングをしてくれた。
メンバーの曲への意見をたくさん取り込んでくれた。
道半ばの47の映像をつけてくれた。
最初は難色を示したかもしれないけれど、安田さんの意見を、関ジャニ∞さんの総意を、きちんと汲み取って実行してくれた。
それは最終的に安田さんや関ジャニ∞さんを信頼した以外の何物でもないと思う。
数字は結果だ。
これだけ関ジャニ∞さんが自身を表現しようと意見を盛り込んだ作品の結果が、赤字で落第点だったら。この先彼らの表現が狭まってしまうのが怖い。
正直、インタビューを読んでぞっとしたのはそこだった。
CDを出すのは、ショーの世界は、エンタメは、キレイごとだけじゃない。
信念を持って闘ってくれたとしても、「口を出した結果、売れませんでした」だったとしたらそれは「あなたの考えはお金にならない=ファンが支持をしない(またはつかない)」ということ。
そして「次がない」ということにもなりかねない。
(だってもし私がスポンサーなら「特典盛りだくさん、音にも拘ったけど大赤字です」となったら、次の作品ではまず第一にコスト削減を考えるかもしれない。というか次は原資がない。厳しいけれどやりたいことをやるには売上はとても大切。)
ここまではっきりと「自分が口を出した」「お金がかかると言われた」「難色を示された」と答えたということは、安田さんは『Re:LIVE』の音楽に関して責任を背負ったということだ。
その怖さはきっとこのインタビューを読んだ私の比ではないと思う。
これで数字が出なかったら。
そんなことを考えなかったのだろうか。
たぶん考えたように思う。
衣装ひとつとってもファンから不評だったら責任は自分にあると言っていた安田さんだ。*6
考えないわけがない。
とてもシビアにいろんなことを考えて、それでも口を出すことを恐れなかったし、口を出したと伝えることを恐れなかった。
このインタビューがされた日付はわからないけれど、雑誌の発売日から考えると『Re:LIVE』の結果はまだ出ていない頃だ。
もしも数字が悪かったら、「ほら見ろ」と誰かに言われることもある。
そういうリスクもありながら、スタッフさんから難色を示されたことを話して「信念をもってやったこと。だから責任は自分にある。」と表明しているように思えた。
安田さんのギアはどんどん上がっていく。
それとともに、関ジャニ∞という責任をもう一回り大きく吸い込んだように思えた。
たとえば私にとって”Show must go on”の象徴である光一さんが、最初は少年隊さんの舞台に憧れて、ジャニーさんにプロデュースされて、途中から自身の表現をすることに舵をきった『Endless SHOCK』は今では日本を代表するミュージカルとなっている。
脚本・演出・作曲・振付など全てに彼の意思が入った舞台は、当初は尊敬するプロデューサーであるジャニーさんと解釈の違いから喧嘩をすることがあった。
それでも光一さんは表現を諦めなかった。
きっと安田さんも同じだ。
安田さんがあの日、”Show must go on”を選択した理由は、平凡に生きている私なんかには推し量ることもできないけれど。
この先、彼はきっと表現を諦めないだろうし、摩擦を恐れない。
現状をシビアに理解しながら、安田さんにとってのShowを、生きることを、表現し続ける方法を選んでいくだろう。
なんだかすごい人を好きになってしまったなと思った。
そして、なんだかすごいことを一緒に体験させてもらってるんだなとも思った。
こんな覚悟を、安田さんの人生を、身をもって表現することを見せつけられたら。
私は安田章大さんからますます目が離せなくなる。
これは安田さんを消費していないか?と不安になる気持ちもあるけれど。
なんて幸せなことなんだろうとも思う。
そんな気持ちを噛みしめながら思うことは、話してくれてありがとうということ。
ここまで7,000字以上もウダウダ書き連ねてしまったけれど、つまりは単純に私はあなたが好きですということ。
それを思い知らされたインタビューでした。
取材をしてくださった吉川さんや掲載してくださったTalking Rock!さんへも感謝を込めて。
あぁ、今日も安田章大さんが安田章大さんを生きている世界が最高です!
もっともっとRe:LIVEがたくさんの方に届きますように!*7